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「ワンストライク」も「よし一本」 人気は対米意識と裏表(産経新聞)
- 2010.05.12 Wednesday
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- 10:20
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- by cwhiniqyhb
空襲の爪痕がそこかしこに残る戦後の東京、人形町の小学校。学芸会で「英語クラブ」の児童が発表した。
〈みなさんがオルガンって言っているのは、英語ではありません。オーガンと言います。ピアノは、ピアーノーですよ〉
奇妙な響きに子供たちはえーっと声をあげた。NHKラジオで23年間にわたってビジネス英語の講師を務める杉田敏さん(66)は、英語との出会いを昨日のことのように覚えている。兄や姉は、「カムカム英語」と呼ばれたラジオ英会話講座を聞いていた。
米国の物量に圧倒された日本人は、玉音放送の響きも耳から消えないうちに英語に飛びついた。戦後1ヶ月ほどで売り出された「日米会話手帳」は、数ヶ月で300万部という驚異的な売れゆきを示した。
日本に最初の英語ブームをもたらしたのも、黒船来航の衝撃だった。幕末に米国に渡って大学を卒業し、明治8年に同志社英学校を開いた新島襄は、教則第一条にこう掲げた。
〈本校ハ正則英語ヲ以テ諸学課ヲ教授ス可シ〉
「正則」は翻訳による「変則」と違って英語のまま西欧の学問を学ぶ。同12年、京都府の視察記録には〈皆英語ヲ以テ問答スル〉と記されている。
新島は、キリスト教思想家の内村鑑三ら親しい日本人には英文でも手紙も書いた。同志社大学の北垣宗治名誉教授(英文学)は「候文で口語とのギャップがある日本語より、英語の方が心のヒダに触れる文章が書けたのではないか」と解説する。
〈生まれ変われるなら何語を母語に選びたいか〉
大谷泰照・大阪大学名誉教授は昭和36年から、大学新入生の意識調査を行ってきた。3年後に東京オリンピックを控えたこの年、「日本語」との回答は14パーセントで「英語」は69パーセントだった。
その後、経済成長と英語人気は逆カーブを描く。日本企業が米国不動産を買いあさるほどにバブル経済が膨張した平成3年、「英語」は「日本語」を9ポイント下回る36パーセントに落ちた。
大谷教授は「日本人は40年周期で『親英語』と『反英語』のサイクルを繰り返してきた」という。英語人気は欧米、とりわけ米国に対する自己認識の大小と裏表の関係にある。
自己認識が極大に達した太平洋戦争期、英語は最も邪険に扱われた。敵国語のレッテルによって野球の「ワンストライク」も「よし一本」と言い換え、英語教育を看板にしてきた同志社も英文科を専攻に格下げした。
夏目漱石は日本が欧米列強に加わった日露戦争の後、英語で学問を学ぶ教育は〈英国の属国印度と云つたやうな感じ〉で一種の屈辱だと記した。英文学の教師を辞して〈英語を教へるのはワンゝと鳴く位な程度〉と屈折した心情を門人に吐露した漱石を、日本人は国民的作家として受け入れた。
〈「ハローエブリバディ〉
東京・渋谷のNHK放送センターのスタジオにいつもの声が響いた。杉田さんには「実践ビジネス英語」講師のほか、PR会社社長としての顔がある。近年行くことが多い中国で、かつて日本にあった英語への熱気を感じるという。「英語を使いこなすひとたちが本当に多い。効果的にしないと日本は負けてしまう」
日本でもバブル崩壊後、英語人気は再び高まった。調査最終の平成14年、「英語」は54パーセントになって「日本語」を21ポイント上回り、昭和40年代半ばと同水準になった。
大阪・梅田の英語学校で聞いてみた。なぜ英語を学ぶのかという問いに関西学院大法学部の小南光平さん(20)は「英語が使えると世界観が広がるから」と答えた。日本人の自己認識がまた、小さくなってきたようだ。
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奇妙な響きに子供たちはえーっと声をあげた。NHKラジオで23年間にわたってビジネス英語の講師を務める杉田敏さん(66)は、英語との出会いを昨日のことのように覚えている。兄や姉は、「カムカム英語」と呼ばれたラジオ英会話講座を聞いていた。
米国の物量に圧倒された日本人は、玉音放送の響きも耳から消えないうちに英語に飛びついた。戦後1ヶ月ほどで売り出された「日米会話手帳」は、数ヶ月で300万部という驚異的な売れゆきを示した。
日本に最初の英語ブームをもたらしたのも、黒船来航の衝撃だった。幕末に米国に渡って大学を卒業し、明治8年に同志社英学校を開いた新島襄は、教則第一条にこう掲げた。
〈本校ハ正則英語ヲ以テ諸学課ヲ教授ス可シ〉
「正則」は翻訳による「変則」と違って英語のまま西欧の学問を学ぶ。同12年、京都府の視察記録には〈皆英語ヲ以テ問答スル〉と記されている。
新島は、キリスト教思想家の内村鑑三ら親しい日本人には英文でも手紙も書いた。同志社大学の北垣宗治名誉教授(英文学)は「候文で口語とのギャップがある日本語より、英語の方が心のヒダに触れる文章が書けたのではないか」と解説する。
〈生まれ変われるなら何語を母語に選びたいか〉
大谷泰照・大阪大学名誉教授は昭和36年から、大学新入生の意識調査を行ってきた。3年後に東京オリンピックを控えたこの年、「日本語」との回答は14パーセントで「英語」は69パーセントだった。
その後、経済成長と英語人気は逆カーブを描く。日本企業が米国不動産を買いあさるほどにバブル経済が膨張した平成3年、「英語」は「日本語」を9ポイント下回る36パーセントに落ちた。
大谷教授は「日本人は40年周期で『親英語』と『反英語』のサイクルを繰り返してきた」という。英語人気は欧米、とりわけ米国に対する自己認識の大小と裏表の関係にある。
自己認識が極大に達した太平洋戦争期、英語は最も邪険に扱われた。敵国語のレッテルによって野球の「ワンストライク」も「よし一本」と言い換え、英語教育を看板にしてきた同志社も英文科を専攻に格下げした。
夏目漱石は日本が欧米列強に加わった日露戦争の後、英語で学問を学ぶ教育は〈英国の属国印度と云つたやうな感じ〉で一種の屈辱だと記した。英文学の教師を辞して〈英語を教へるのはワンゝと鳴く位な程度〉と屈折した心情を門人に吐露した漱石を、日本人は国民的作家として受け入れた。
〈「ハローエブリバディ〉
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日本でもバブル崩壊後、英語人気は再び高まった。調査最終の平成14年、「英語」は54パーセントになって「日本語」を21ポイント上回り、昭和40年代半ばと同水準になった。
大阪・梅田の英語学校で聞いてみた。なぜ英語を学ぶのかという問いに関西学院大法学部の小南光平さん(20)は「英語が使えると世界観が広がるから」と答えた。日本人の自己認識がまた、小さくなってきたようだ。
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